はじめに
この記事では、 N予備校で提供している VR 教材を利用した バーチャル学習について、体験のポイント、及びそれを実現するシステム構成と開発の工夫点をお伝えします。 全体を通して、 VR 教材を利用し始めるまでのサポートと、マルチデバイスで VR 教材も通常教材もシームレスに連携した点がポイントです。 これらを体験と開発の両面からお伝えします。
VR 教材とは
最初に、N予備校で提供している VR 教材がどのようなものか説明します。 こちらの動画を見ていただくと、雰囲気がつかめると思います。
VR 教材は、 Meta Quest 2 上で動作する VirtualCast 上で視聴・体験できる学習教材です。 VR ならではの臨場感のある教材や、 VR だからこそできる体験ベースの教材を提供しています。
大きく分けて、 以下の3つの種類の VR 教材を提供しています。
- 授業動画:動画教材を VR 空間内の教室で視聴できます
- 全天球:小説の舞台や火星など VR 空間ならではの時空を超えた体験ができます
- 対話教材:面接や英会話など、インタラクティブな対話を体験できます
興味を持たれた方は、以下のコースから学習をはじめてみてください(N予備校アカウント、Meta Quest 2 が必要です)。
- バーチャル学習の進め方 VR 空間内で学習を進めるためのセットアップ方法について解説しています
- 【無料体験版】バーチャル教材を体験しよう 授業動画、全天球、対話教材をそれぞれ体験できます
全体のシステム構成
VR学習は、3つの会社の4つのサービスをまたがって実現されています。
株式会社バーチャルキャスト
- 以下の2つのサービスを提供しています
- VirualCast ( https://virtualcast.jp/ ) VRを用いたコミュニケーションサービス
- THE SEED ONLINE (https://seed.online/) 3Dデータ共有サービス
- Meta Quest 2 上で動作する VirtualCastアプリを提供しています
- 上記 2つのサービス 及び N予備校を組み合わせて、VR体験を提供しています
株式会社ドワンゴ
- 学習サービスである N予備校 (https://www.nnn.ed.nico/) を提供しています
- 教材や学習進捗の情報を管理しています
学校法人角川ドワンゴ学園 (https://nnn.ed.jp/)
- N高等学校・S高等学校(以下N高・S高)の生徒の情報を管理しています
- N予備校から同期されるオンライン学習内容(学習進捗やレポート)にもとづいて、成績を管理しています
体験のポイント
VRという新しいデバイスは、まだ殆どの人が未体験なものでした。 そのため、このプロジェクトでは複数のサービスとデバイスが絡み合う事での複雑さをできるだけ下げてあげる事を目標にしています。
VR学習を利用する2つのユーザー
N予備校でVR学習を利用するユーザーには大きく分けて2つの立場があります。 そのどちらから見ても不自然でない誘導や表現の強弱が随所で必要でした。
- VRが重要なユーザー(メインかつ大多数)
- 角川ドワンゴ学園の高等学校にあるVR対応コースに入学した生徒
- VRが補助的なユーザー
- N予備校を利用する社会人・高校生
複雑さを下げるキーポイント
機能やシーンごとに注意深くデザインするポイントは以下であると考えました。
- (1) VR学習の利用開始
- (2) シームレスなVR教材利用
(1) VR学習の利用開始
バーチャル学習のイメージを具体化 | システムの複雑さを軽減 | トラブルシューティング |
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バーチャル学習とはなにか、どう始めるのかといった疑問や不安を解消する | 4つのサービスと2つの空間にまたがる複雑さをなるべく軽減する | つまずいた時にサポートし、できないまま終わりにならないようにする |
VRを初めて体験する人が、N予備校に初ログイン後、VR空間で教材を体験するまでの流れをサポートする必要がありました。 そのために大事なことを3点に整理しました。
- アプリ内にVR初期設定の開始地点を複数持つ
- 複雑な手順を軽減する
- 認証の際の負担をなるべく軽減する
- 動画・特設マニュアル等リッチなコンテンツで補助する
- うまく設定できない場合や混乱した際のトラブルシューティングを用意する
(2) シームレスなVR教材利用
どこかで見た操作の模倣 | 学習中の授業を自動記録して再開 |
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スマホで教材を選んで TVで 見る スマホで教材を選んで VRで 見る |
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「TVで見る」のように「スマホで選んでVRで見る」の操作方法を基本にする | スマホ操作無しでVR端末から学習が再開できる仕組みを提供する |
開発規模の都合で、2段階に分けて VR 教材利用についての機能開発をしました。
- Phase1 アプリからVRへの連携
- Phase2 アプリとVRでのクロスデバイスな動画レジューム
Phase1 でアプリからVRへの連携を実現しました。 PC、iOS、Android といった手元の端末で教材を選択すると、 VR 空間内で選択した教材を視聴できます。 ただ、この時点では、 VRで教材を使用した後で手元の端末に戻ると、動画の最初から再生されてしまっていました。
Phase2 ではよりシームレスにVR端末と連携できるようにするため、クロスデバイスな動画レジュームを実現しました。 この改善により、手元の端末で途中まで見ていた動画の続きをVR端末で視聴できたり、逆にVR端末で見ていた動画の続きを手元の端末で視聴できたりするようになりました。 また、VR端末を利用せずとも、PC版で途中まで再生した動画を、外出先スマホから再開できるようになり、VR学習を利用していないユーザーでも便利になりました。
体験実現のための詳細設計
認証・認可
アカウント連携
3社の合計4つのサービスに別々にアカウントが存在しています。 N高・S高の生徒が Meta Quest 2 上の VirtualCast アプリで教材を受講して、その受講結果をN高・S高で成績に反映するためには、これらのアカウントを結びつける必要があります。
この4つのサービス間の連携は OAuth によるアカウント連携により実現されています。 N高・S高以外のユーザーが利用する場合にはN高・S高マイページアカウントではなくニコニコアカウントや Apple ID を利用することになりますが、大きな流れは変わらないため、N高・S高の例で説明します。
全体としては、「N予備校アカウント発行」でログインしたら、後は、パスワード入力は必要なく、認可を許可するボタンを押していけばセットアップを完了することができるようになっています。 「(1) VR学習の利用開始」で述べたように、ユーザの認証の際の負担をなるべく軽減するための工夫です。 このようにするために、VirtualCast 側の開発メンバーに相談して、N予備校でのログインに対応していただきました。 将来的にKADOKAWA統合アカウントのようなものができれば、より簡易にできるかもしれません。
VirtualCast からの N予備校の利用
VirtualCast からN予備校を利用する際には、上記の「VirtualCast, N予備校間連携」で N予備校から VirtualCast に発行されたアクセストークンを利用します。 これにより、Meta Quest 2 上ではN予備校へのログインは不要となります。
実現にあたっては、OpenID Connect の scope 仕様を使用して、教材、進捗情報以外にはアクセス制限を行うなどセキュリティ面も考慮しました。
シームレスな利用(教材連携)の技術
「(2)シームレスなVR教材利用」の実現として、VR教材をリリースしたPhase1(2021年4月)時点ではN予備校からVirtualCastアプリへの一方向の同期を、限定的な機能として提供しました。 具体的には、N予備校上で、「VRで見る」ボタンを押すと Meta Quest 2上で VR教材が中断位置から自動再生で見れるという機能です。 N予備校から Meta Quest 2 に切り替えるときはスムーズなのですが、N予備校に戻ると、VR教材に切り替える前の位置から再生されてしまうという不十分なものでした。
Phase2(2021年12月)では、再生位置が複数の端末間で共通で保存されるように改良を行いました。
- PC/iOS/Android/Meta Quest 2間で再生位置が同期される
- 「VRで見る」ボタンを押さないでも同期される
- Meta Quest 2 を被ったり脱いだりしたタイミングでも再生位置が自動で同期される
- 単体の端末でも、前回の再生中断位置から再生できる
将来的には、Meta Quest 2 を被ったら自動で PC上のN予備校では動画が止まるといったように、よりユーザの手間を少なくして、シームレスな使いやすい機能を目指したいと考えています。
Phase1 | Phase2 |
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おわりに
VR 教材を2021年4月にリリースして以降、2022年度になってもVR 教材の拡充を続けています。 例えば、宇宙空間を体験したり、面接練習や大学のオープンキャンパスを訪れたり、英単語の音ゲーで楽しく学んだりできます。
今後、バーチャル技術の教育への応用事例はますます増えていくと思われます。 バーチャル技術の活用による新しい学び方への取り組みについて、イギリスの教育支援団体が選ぶ 「世界最高の学校賞」イノベーション部門トップ10にN高等学校が選出されるなど、社会的な注目の高まりも感じています。 N予備校でも、このような取り組みを発展させてよりよい学習を提供できるよう、継続的に開発していきます。
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